ここで息をする


「どうする? せっかくいい感じで泳げたんだから、感覚を忘れないようにもう少し泳ぐか? 波瑠がもう満足だっていうなら、休憩するのもありだけど」


先輩は私に問いかけながら室内の壁時計を見上げた。もうすぐ監視員にアナウンスされるであろう、プールの一斉休憩の時間を気にしているのだろう。

私も時間を確認するけど、あと2往復ぐらいなら出来そうだと思った時点で、心は返事を決めていた。

先輩に視線を定めた私の顔はたぶん、今日一番輝いていただろう。


「――もちろん、泳ぎますよ! まだ時間あるし、泳がないなんてもったいないですよ」


泳いでも息苦しくならないなら、もっとこの場所に居たい。そんな声を発している心のことを、放置することなんて出来なかった。

もしかしたらさっき泳いで息苦しくならなかったのは、たまたまのことなのかもしれない。もしくは、一時的なものなのかも。

だけど、例えそうだったとしても。今はただ、目の前の水の世界で過ごす時間を楽しみたいと思ったんだ。


「波瑠ならそう言うと思った。じゃあ、俺も付き合うよ」


先輩はそう言いながら、頭に上げていたゴーグルを下げて装着した。楽しそうに上がっている口角につられて、私の口角も気持ちの高鳴りを表すように上がる。

目配せした私達は、ほぼ同時に泳ぎ始めた。

水中で生まれる泡の音が、何だか楽しそうな笑い声みたいだった。



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