ここで息をする


「初めての撮影なんて、もっとぼろぼろになってもおかしくねーよ。だけど波瑠は、ミスしてもめげずに頑張ってた。それだけ一生懸命やってくれただけで、俺らはすげえ嬉しいんだよ。な? みんなもそうだろ?」


高坂先輩の視線は、彼を中心にして周りに集まっているみんなに巡らされる。私も追いかけるように全員を窺う。

誰も、私を咎めるような顔をしていなかった。何回最初からやり直すことになってもそのたび嫌な顔一つせずにいてくれた人達が、今は高坂先輩の言葉に同意するように頷いてくれている。

上手く出来ずにミスをしてましてや手間取らせてしまったことに自信喪失していた私には、向けられた優しさがやけに染みた。


「……ありがとう、ございます」


お礼を言う声が掠れる。だけど視線を逃がさずに、しっかりと全員の顔を見ていた。こんな私でもここに居てもいいと言うように笑ってくれているみんなに、ちゃんと伝えたかったから。

胸の奥に宿った温かな光に促されるように、沈んでいた私もようやく心から笑うことが出来た。

そんな中、隣に立っていた航平くんが励ますように私の背中を軽く叩く。


「反省するのも大事だし、自分の行動をきちんと振り返れるのは波瑠のいいところだけどさ。ミスはあまり気にしすぎない方がいいな。意識しすぎると余計な神経使うし。それに波瑠だけじゃなくて俺も何度か台詞間違ってたし、自分だけで背負わなくてもいいよ」

「そうそう。波瑠が派手に台詞を噛むからそっちに気を取られてついスルーしてたけど、航平も何回か一言抜けたり増えたりしてたよなー」


高坂先輩が少しからかうような口調で突っ込んだ。航平くんは苦笑いしながら「やっぱばれてたか」と呟く。


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