俺が目覚めるときは金木犀の薫り
突然のさよなら
ジリジリリ…
蒸し暑い夏の朝、窓の外ではセミがあちらこちらで鳴いている…。
「…、早く冬にならないかな…。」
俺の口癖だ。夏になるといつもこうだ。朝はクーラーをガンガンつけてても、暑がりな俺だ。全然涼しくならない。
俺は冬が好きだ。涼しいし、嫌いな虫もいないし、雪だって降る。そして、何よりあの植物…、花なのか木なのかよくわからない…、冬の薫り。金木犀の薫りだ。
俺はあの臭いをかぐと、冬だ、と実感する。それに…
「私、金木犀の薫り好きだな…。」
あの子とも、話すことができる…















「いってきまーす…。」
重い足取りで玄関をでて、いつもの通学路をとぼとぼ歩く。すると、後ろからあの子が話しかけてきた。
「あっ…ついねー!!!冬が好きな少年!」
彼女は、今にも周りにひまわりが咲くんじゃないかというくらいの明るい笑顔で、俺のあだ名(というか、彼女がそう呼んでるだけなんだけ)で呼んだ。
「そうだね、金木犀さん。」俺はお返しに、勝手につけた彼女のあだ名で呼んだ。
「金木犀さんか~!いいねいいねー!」
あれ?逆効果だった…。
「ていうか、私たち、しゃべるの去年の12月中旬くらい以来じゃない?!」
「…そうかも、でも、毎年のことじゃん。」
そう、…彼女と話すのは冬だけ、今日はほんとのほんとに奇跡なのだ…。
「そうだっけー?だはは!私さ、あんまりそういうの覚えてないんだよねー!」
うん、だと思ったよ…。
少し残念かもだけど…。
「それより時間!大丈夫なのかな?」
俺は時計を見て彼女を見た。彼女は青白い顔で僕を見つめた。
「急ごう!冬が好きな少年くん!!!」
焦ってるのか、【くん】をつけて彼女は走って行ってしまった…。
俺はため息をつき、大好きな彼女の後を追った。














この日、俺はまだ、冬を待ちわびていた…。金木犀の薫りと、彼女と話すことができる冬を…、まだ…まだ…。




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