世界のまんなかで笑うキミへ



颯は「じゃあまた放課後」と言って、去り際に私の頭をぽんと撫でた。


…………『また』。


颯はいつも、別れ際にこの言葉を使う。


私はそれを聞くと、ああ明日も会えるのだと思い、安心できた。


だけど今はなんだか、その言葉が妙に切なく私の胸に響いた。






放課後、もんもんとした気分のまま、美術室へ行った。


先に来ていた先輩は私に気づくと、「やあ」と手をあげた。


「なんだか暗い顔してるね」

「………そう、ですか?」

「うん。何かあった?」

「……………」



何かあった、というより、何かが起こっていた、だ。


私の知らないところで。


まさか颯とのことを言えるはずもなく、私は黙った。


先輩は目を伏せた私を見て、ふ、と微笑んだ。


それはいつも私を安心させてくれていた、あの笑顔で。



「何があったのかはわからないけど………中野さんならきっと大丈夫だろうって、僕は思ってるよ」



ぱっと顔をあげる。先輩の眼鏡の奥の瞳は、やさしく細められていた。




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