冷たい男
―将李SIDE―



「これから手術を行いたいと思います。頭もお腹も強く打ってる為、今は何とも言えませんが、お待ち下さい」



「……はい……」



薄暗い、病院の救急外来の廊下。

30分前に事故に遭った侑李が、手術室へと連れて行かれた。

意識があるのかないのか。

目を開かず、手を握り返す事もない侑李を見送る。



「……将李……」



「悪いが今は、触らないでくれ」



「…………っ、」



誰が悪いのかなど、今はわからない。

だが、侑李から聞かされた事が事実とするなら、隣に座る頼香は何なのか。

金目当ての女なのか。

だとしたら、事の真相がわかるまでは触れてなど欲しくない。

電話が来るまで、病室で幸せに過ごしてた筈なのに、それがおぞましくて溜まらない。



「ちょっと、電話して来る」



「うん……」



病室に戻りそうにない頼香をその場に残し、外へと出た。

侑李の手荷物にあった携帯と煙草を鞄から出し、煙草を吸いながらスマホから“カザオカ”の名前を探す。

運ばれた病院に頼香が入院して居て、そこに侑李が最後に口にしたらしいヤツを呼ぶとは何とも腹が立つ。

妹だからわかるのだろう。

カザオカは、侑李が好きな男だろ?

それは必然的に頼香が好きな男。

2人を会わせたくないが、会わせればわかるだろう。

場合によっては、俺はどうするか。

冷静で居られるかは謎。

でも、カザオカだけでは呼ばないと。
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