あ、あ、あ愛してる
花音には見られたくない姿だ。

術後2週間、徐々に喉の腫れが引き始め造影検査で嚥下機能を観察し、経口摂取の訓練を開始した。

誤嚥が心配なため、少しずつゆっくり口に入れる。

気管切開したままで、食道の入り口が開いた状態になっているため、胃の内容物が逆流しやすい。

食後2時間は、上半身を起こしたまま座位を保つ。

俺は声門開大術という手術を行ったが、麻痺した声帯は動かず、症状のすべてが改善したわけではない。

できるだけ元の声を保つために、気管切開は残したまま、気管孔にカニューレやレチナを挿入し、スピーチバル弁を装着し、呼吸も発声も可能な方法を選んだ。

肺機能や喉の炎症などを慎重に確かめ、発声のリハビリが開始になったのは、全国大会の3日前の午後だった。

嗄れた空気音が頼りなく漏れるだけで、言葉にならない。

吃音は相変わらずで、声を出す気力を萎えさせる。
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