ハロー、マイセクレタリー!

彼女が政治家になると宣言してたら、15年が経った。
その後の結依子は、まさに政治家になるべく努力を重ねてきた。学校の勉強はもちろんのこと、政策を論じるために必要な知識を蓄え、演説技術を磨いた。

そして、その努力は早々に実を結ぶこととなる。
大学卒業後に父・征太郎の秘書となり、今年の春の統一地方選で県会議員に初出馬、見事に初当選を果たした。
若干26歳で、政治家としての第一歩を早くも踏み出した彼女は、やはりどこへ行っても注目の的だ。

そして、僕もまた、あの日の宣言通りに研鑽を積んでいる。今は、高柳征太郎の地元事務所で働く私設秘書の一人だ。


そして、今日からは。
県会議員・高柳結依子の秘書でもある。


「前髪は自然に流して、ハーフアップにしようかな」
「そうね、メイクもナチュラルな感じで行くわ」
「メイクもしようか?」
「いや、自分でやってみる。この前瞳ちゃんに教えてもらったから」

場所を高柳家の広いバスルームに移動して、洗面台の前でヘアセットをする。
洗顔を住ませた結依子は同時にメイクに取りかかった。

「……リップはその色じゃない方がいいな」

セットをしながらも、時折結依子の手元が気になってしまう。ついつい口を出してしまった。

「えっ、そう?瞳ちゃんに、教えてもらった通りだけど……」

そんな、男がすぐ食いつきそうな淡いピンクのリップを薦めるなんて。我が母親ながら、恨めしく思う。

「こっちの方がいい」
「……地味すぎない?」
「本当は出来れば、無色の薬用リップだけにして欲しいくらいだ。そんな美味しそうな唇にして、誰かにキスでもされたらどうするの?」
「……奏、誰も狙ってないから大丈夫よ」

僕の真意が分かると、結依子は僕が渡したヌードベージュのリップを押し返し、当初の予定通り淡い桜色を唇に乗せる。初々しい印象の、人気の流行色だ。

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