プロポーズはサプライズで

時刻は二十二時を過ぎている。

外に出た途端に吹き付けるビル風は身を切るように冷たくて、花束を持ったまま手をこすり合わせる。

と、不意に風が体に当たらなくなったと思ったら、風上に国島さんが立ってくれていた。
思わず見上げていると、彼は特に気にした風もなく「飲んでく?」とみんなに向かって問いかけた。


「んー。明日は初日だから今日はやめとく」


答えたのは三笠くん。明日美も「そうね。残念だけど」と続ける。


「そっか。じゃあここで解散。明日から頑張れよ、三笠くん」

「うん。川野も国島さんもありがとうね」

「八重ちゃん、またね」


三笠くんは、明日美を急き立てるようにして歩き出す。
早々に帰ることにしたのは、きっと二人もふたりきりの時間を楽しみたいからなんだよね。
プロポーズの本番は、きっとこれからなんだろうし。

私と国島さんは付き合ったばかりだし、正直結婚とか想像もつかないんだけど。


「ほら八重、行くぞ」


当たり前みたいに手を伸ばし、周りの視線なんか気にせず、固く握られる手。
いつまでもこの手が、私に向かって差し出されればいいなと思う。

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