腹黒エリートが甘くてズルいんです
「……一旦、酒井君の事は置いておいてもらっていい? ていうか、無関係だから忘れて!」


あたしの言葉にウンウンと頷きつつも、『じゃあ何よ、一体』と、綺麗な顔に書いてある。


そこであたしはお通しである卯の花の小鉢をいじりながら全てを話した。


先週、出光先輩の代わりに保育園に出向いたこと。
その時、とてもかわいい小さな子がいたこと。
その子と先生とのやりとりを見ていて、昔の自分の夢を思い出したこと。
その、夢を追いかけようかと思っていること。
それはつまり、今の会社を辞めて保育園で働くということ。
でも、その決断はまだ迷っているということ。


「……すごい」

どばーっと吐き出したあたしの思いを受けての由依の第一声はそれだった。


笑い飛ばされたとしても、引かれたとしても当然のこととして受け止めようと決意していたあたしからしてみれば、肩透かしを食ったような、拍子抜けのような対応で。


「いや、何一つ凄くは無いんだけど」


言いながら視線を手元に落とすと、小鉢の中の卯の花がかき混ぜられすぎてポロポロになっている。
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