腹黒エリートが甘くてズルいんです
「やましいって、大袈裟だけど。イデミッツーはいい人だから、俺の悪行を隠すのに必死だったんだろ」


あく……ぎょう??

何となく、嫌な予感がする。この先を聞いてはいけないような。


「なにか……したの?」


聞きたくない。聞いちゃいけない。


「騙しててごめんな」


聞いたことの無いような静かなトーンで酒井君が謝る。
なんで、あたしに、謝ったりするの?

『聞きたくない』というあたしの感情はお構いなしに、酒井君が話を進めようとする。
嫌だけど、この流れを止める術をあたしは知らない。


「……な……にが?」


ふいに、あたしの身体の右側の方から何かがゆっくりと伸びてくる。
見ればそれは酒井君の綺麗な手で。


その左手の薬指には、指輪がない。


事態が飲み込めず、思わず無言で酒井君を見る。


「俺ね、結婚してないの。していたことも、ない」


すっきりとした指をひらひらと動かして、なんてことないように言う。
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