腹黒エリートが甘くてズルいんです
あたしの渾身の例えは酒井君のツボに入った様で、身体を震わせて涙を流さんばかりにして笑っている。


「あはは、もーやめろってまじで……面白すぎるだろ。なんだよその秀逸な例えは!」


ひーひーと息をするのも辛そうにしながらも、あたしをちらりと見てくる。


「……」


酒井君の言葉をひたすらに待つ。


「大丈夫、幸せだよ。だから、安心して俺のレクチャーに従え! でもまあ、どんなに優秀な先生でも、結局は生徒の実力だかんな……大体、そんな短期間で結果を出せとか、鬼かよ、と」

ああ。あたし最近色んな人に鬼呼ばわりされている気がする。

「……まあね。でもさ、35歳って、もう、なんか……」


うまく返そうと思うのに、言葉が続かない。
何故かあたしは、ショックを受けていた。


酒井君が結婚をして幸せだという事実に。
なんでだろう。
それはいいことなのに。
さっきの例えで言うなら、憧れるスリム体型の美人さんに、『このサプリ効くよ!』とか、『このジム良かったよ!』と教えてもらうようなものだから、従う以上、酒井君には幸せでいてもらわないと困るのに。
< 63 / 227 >

この作品をシェア

pagetop