大人にはなれない

「……笠間………」
「なんだよ、先生に向かって呼び捨てはないだろ。さすがにおまえにそこまでフレンドリーになられちゃびっくりするぜ~、美樹ちゃんっ」

教師にしては安っぽい口調。生徒ウケ狙いがみえみえな軽薄な態度。すべてが癇に障るヤツだ。

おまけに生徒が嫌がると知っていて、わざと相手が嫌がるようなこともしてくる。まるでそれが『仲の良さ』の証だとでもいうように。

たとえ斗和や息吹に『ミキちゃん』と呼ばれてイジられても腹が立つくらいだけど、無神経なこいつにそう呼ばれると鳥肌が立つほど不快だった。


「あれ?福原先生もいたんですか。やったな、俺。ラッキーじゃん」

笠間は福原先生の姿を見つけると、だらしなく顔を緩ませる。それから俺が手に持ったままだった『給食費』と書かれた封筒を見ると、いっそういやらしい笑みを浮かべて言った。

「なんだなんだ、おまえまた福原先生に金の無心に来たのかよ?」


-------今、ここでそれを言うのか。中村が、俺を見てるのに。


中村の強烈なくらいの視線に、俺は凍りついたように動けなくなる。


「敷島さぁ、あまり福原先生困らせるなよ。また給食費立て替えてもらうつもりか?」
「………立て替え?」

俺の疑問に、笠間は哀れむような顔していっそう笑う。

「なんだよ、敷島知らなかったのか?このやさしい福原先生はな、おまえの家が滞納している給食費を自分の給料からこっそり」
「ちょっと笠間先生ッ!!」
「………あれ、敷島に内緒にしてたんですか?ほんとやさしいなぁ、福原先生は。でも甘やかしちゃいけませんよ。だって恩知らずな美樹ちゃんは、また給食費返せとか、いちゃもんつけに来てるんでしょ?敷島、お姉ちゃんよりしっかりしてると思ってたのに、給食費払う義務ないとか、そういうモンスターペアレンツみたいな戯言言っちゃダメだぞ?あんまり福原先生困らせるなよ~」
「笠間先生ッ!!」


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