大人にはなれない

4) 無二のヒーロー・斗和


4) 無二のヒーロー・斗和


学校から飛び出して。家に帰ることも出来ないまま、公園でくしゃくしゃになった給食費袋を握り締めてしばらくぼんやりベンチに座っていると、ジャージ姿の斗和が通りかかった。

「あっらーっ!こんな暗がりに、なんかイケメン落ちてるしっ!」

今日も部活でかなりしごかれただろうに、疲れなんて微塵も感じさせないテンションで俺に駆け寄ってくる。


斗和はバスケ部だ。

よく俺や息吹の前では「毎日部活の練習とかマジかったりぃ~、ありえねぇし」なんて言うけれど、ボールを持った斗和を見ればそんな言葉はただのポーズだってことがよくわかる。

コートにいるときの斗和は、水を得た魚だ。体育館の四角い海の中で誰よりも上手く、誰よりもたのしげに泳ぎ回る。

全身で『バスケが大好きだ』とまっすぐに主張する斗和のプレイは、見ているだけで爽快だ。でもただ見ているときよりも、斗和と同じコートでプレイしてるときのほうがもっともっと爽快な気分になれた。

味方であろうと敵であろうと、斗和とバスケをするのはすげぇ気持ちがいい。斗和は人を本気にさせたうえで、自分も相手も心の底から真剣勝負をたのしませることが出来る。

そういう才能の持ち主だ。



「まーまーこの悪人面のイケメンったら見事な三白眼っ、クールでステキ!あたしシビれちゃう~」

斗和は何がそんなに楽しいのか不審に思ってしまうほどのテンションのまま俺に近寄ってくる。

バスケをしているときだけは唯一無二のヒーローでも、コートの外に出ればただのバカだ。息吹の言葉を拝借するならば、バカの前に『愛すべき』とつけてやってもいいが。


「いやん、ミキくんったらぁん。そんなきっつい目力であたしを見つめな・い・でっ!!熱くてとけちゃうーんっ」
「………おまえいちいち反応ウゼェな」
「わ、ミキちゃんノリ悪ぃな。ってかあからまさに『ノレるかっ!』って顔すんなってのっ。つかどうしたん?さっさと行くぞー」

ここで俺と会うことが前から決まってたような調子で、斗和は公園の中を進んでいく。いくらもしないうちに振り返ると、すこし困ったような顔をして「ミキ」と呼びかけてきた。

「なんだよ?来いよ。俺んちくんだろ?」

斗和の家はこの公園の先だ。

本来の斗和の通学路はこの公園を迂回する遠回りなコースで、本当は公園の中を通ることは学校から禁止されている。けれど面倒くさがりの斗和はいつもここを通って家までショートカットしていた。

つまり俺は、この公園で待っていれば必ず斗和に会うことを分かっていてココにいて、斗和はそんなこと見抜いてたってワケだ。

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