大人にはなれない

「うーん、メリットかぁ。金銭的な利益って意味なら、僕らにも長澤所長にも何もメリットはないね。『みらい塾』に関しては助成金が貰える規模の活動はしていない、NPOの中でやってるただのボランティアだからね。……ああ、ちなみに敷島くんはNPOってなんのことだか分かる?」


たしかそれは公民の分野だ。


「………営利を目的としていない活動………をしている団体……?」


教科書の言葉をまんま言っただけだから、それがどんな意味なのかは実はよく分かっていない。でも飛田さんは満足そうにうなずく。


「うん、それだ。正解。『非営利』っていうのはちょっとわかりにくいけど、『お金を稼ぐことを目的にしていない』って意味だね。
 NPOの活動は組織によっていろんな種類があるけれど、どれもだいたい国や地方公共団体という大きな網では掬いきれずに網目から漏れてしまうような細かな案件を、代わりにフォローしていくことが期待されているんだ」


まだいまいちピンと来ない俺に、飛田さんは根気よく続ける。


「町おこしなんかをしている産業系の団体や医療系農業系災害地の復興支援系、いろんな分野でいろんなNPO法人はあるけれど……君たち世代の身近なところで言えば、待機児童が解消されない地域で放課後に小学生を預かったり、授業中にじっとしていることが苦手な発達障害というものへの理解を深める活動をしたり、不登校児童のメンタルケアをする活動をしている団体なんかがあるよ。
 ケースはそれぞれだけど、どれも親や先生っていう当事者だけではなかなか解決し難い問題に、NPOの組織がカウンセラーや学校、行政なんかと連携して一緒に取り込んでいくんだ」


話としてはわかるけれど、それがいったい俺になんの関係があるというんだ?俺の表情からそんな疑問を読み取ったのか、飛田さんは続ける。


「さっき向こうの部屋で長澤所長と会っただろ?ここ、あの人が代表を務めてるNPO法人でね。普段は若者の就職支援活動をしているんだ。でも毎週土曜日にだけは『みらい塾』を開いているんだよ。
 この塾はね、下は小学生から上は高校生までを対象にした無償の学習塾で、家の経済事情なんかで学費を掛けられない家庭の子供たちのための学習支援の場なんだ。僕も含めて講師役は大学生のボランティア。たまに紗綾ちゃんのお父さんみたいな会社員さんとか会計士さんなんかも教えに来ることがあるよ」


飛田さんはそういいながら、選んできた受験問題集のプリントを俺の目の前に広げる。

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