潮風の香りに、君を思い出せ。



「ちゃんとしてからって、自分で言ったのに」

恥ずかしくて下を向いて言う。駄々をこねてキスしてもらうなんて、やっぱりバカ。

「七海ちゃんが甘えてくるからだよ」

大地さんが早口で言って、エンジンをかけた。



「あかり、朝から店に行くって言ってたよ。土日はバイトの子もいるらしいけどね」

バックで車を発進させながら言う。やっぱりお店は通り過ぎてしまったみたいで、通りに出ると右に曲がって今来た道を戻っていく。 走り出してからも一度もこっちを見ない。照れてるのかな。

私も恥ずかしくて、何も答えないで窓の外を見た。




甘えるってああいうのじゃないんでしょ。

こう思ってる、こうして欲しいとちゃんと言うことなんでしょ。


彼とよりを戻せなんて言わないで。

ナナさんと元に戻りたいのかと思わせないで。



そうか、そう言わされたんだ。

そういう無理やりなのも、甘えたっていうの?



二人で黙ったまま、でもさっきとは雰囲気の違う沈黙を感じながらあかりさんのお店に向かった。

全開にした車の窓から、気持ちいい風が入ってきていた。
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