潮風の香りに、君を思い出せ。

海辺を歩いて行くと

そのまま時々ぽつぽつと話したりしているうちに、終点の駅に着いた。

幅広の改札を出ると、いかにも郊外の広々としたロータリーの上に青空が広がっていた。五月の明るく乾いた日差しが暑い。通勤通学時間を過ぎて人通りはまばらだ。

この駅は見覚えがあるような気もするし、そうでもない気もする。舗装された道路は新しそうで、割と最近改装されてるならわからなそうだ。

「住んでたかもしれないんだっけ。見覚えあった?」

「あるようなないような、です」

「そんなもんだよね、子供の頃の記憶って」

もしかして、さっきの話の続きで気を遣ってくれてるのかもしれない。覚えてるとか忘れたとかいう話題は避けてもらう方が嬉しいんだけど、大地さんが言うとなんとなく気にならない。



歩き出そうとして、立ち止まった大地さんは「重いな」と言った。確かに、その営業かばんは重そうだ。

「十分ぐらい歩くと海岸だけど、荷物はコインロッカーに預けて行こうか。七海ちゃんのも重いんでしょ、それ」

「手ぶらで行きますか? 私はポケットないから、教科書だけ置いて行こうかな」

二人分の荷物は、一つのロッカーになんとか詰め込めた。よく考えると別々に入れても困るような金額でもないのに、二人でなぜか工夫して頑張った。

大地さんは最後にスーツのジャケットまで畳んで巻いて隙間に入れた。呆れて「シワになりますよ」と言ったら、「クリーニングに出すよ」と気にする様子もない。


シャツを腕まくりしたサラリーマンと、デニムのワンピースにスカイブルーの大きなバッグを斜め掛けにした私。妙な組み合わせだけど、気にする人もいなそうな開放的な街。



コンビニでそれぞれに飲み物とパンとお菓子などを買って、ピクニック気分だ。楽しくなってきた。
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