潮風の香りに、君を思い出せ。

かわいい家に着いた

何度見ても笑えるいでたちの大地さんと、一緒にまた住宅街を歩いて行く。開き直ってビーチサンダルのまま行くようなので、私もお付き合いしてそのまま行く。

お昼が近いのか、太陽が高くなっていた。時間なんか今はどうでもいい気がして、バッグの中の携帯はチェックしなかった。

今日は、いつも何かと頑張っている私へのご褒美だ、きっと。

潮風がおかしな先輩を連れてきてくれて、たくさん笑っていいよって許してくれたんだ、久しぶりに。そう信じてみたら、海水でベトベトになったことさえ楽しい経験になりそうだった。




海沿いの道を離れ住宅地の中に入り込んで行って、大地さんの実家の前に着く。【篠原】と表札が出てる。うん、大丈夫、篠原大地さんの家。騙されたりしてない。

少し年季が入ってそうな、でも良く整えられたかわいい家。玄関の前に、赤いゼラニウムと幾つかのハーブが植えてある。



カギを持っていないと言っていた大地さんがチャイムを鳴らすと、すぐにドアが開いてお母さんが現れた。

「はいはい、おかえり」

と言ったあと、大地さんのお母さんは絶句して、一瞬の間のあと爆笑した。

「その格好……ひど……」

笑い過ぎて声が出てない。私もつられてまた笑いスイッチが入ってしまい、初対面のおばさんと二人で笑い転げた。



目尻の涙を拭きながら、「あらごめんね、こんなところでずっと。上がってちょうだい」と促してくれる。

お邪魔しますと中に入ったものの、私も大地さんほどではないけど砂で足が汚いので、このままは上がれないしどうしようかと今更ためらう。

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