潮風の香りに、君を思い出せ。
まだ涼しい浜辺を散歩して、転ばないように気をつけて波打ち際で遊んで、すっかり明るくなってからまた自転車で帰った。


大地さんの家に戻ってもまだ七時台だ。お線香をあげたいって言ったって、人を訪問するのには早すぎる。せめて十時ぐらい?

「俺ちょっとだけ寝てからでもいい? 昨日あんまり寝てない」

大地さんはあくびをした後で言った。そうなんだ、自転車を取りに行って帰ってきて、結構遅くなったのかもしれない。昨日だって疲れていたしね。

ソファに横になったら、大地さんはあっという間に眠ってしまった。

勝手に飲み食いしてていいよと言われたので、手持無沙汰を紛らわすためお湯を沸かして紅茶を入れてみる。

大地さんが眠るソファに持たれて、床に座ってマグカップでお茶を飲む。昨日のことを思い出さないように、大地さんのほうは見ないように気をつけた。



おばあちゃんちに行くのか。帰ろうと思いつつ、だんだん帰るのが先延ばしになってる。行ったって多分なにもないのに。

でもなんで、行きたくないんだろう私。なんで今さらおばあちゃんのことを思い出して困ってるんだろう。

お母さんが私を信じてくれなかったので傷ついた。
本当にそれだけ?



考えてもなにも浮かばなかった。紅茶の湯気を吸い込むと、一緒にリビングに漂う木の香りもほんのりする。いいなぁこういうの。落ち着く。

テレビをつけようかなと思ったけど、 四時前に起きたから私もちょっと眠いなぁとあくびをした。
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