潮風の香りに、君を思い出せ。
第四章

ちゃんとすると決めて

大地さんのうちの車は、シルバーのセダンだ。あかりさんのみたいに凝ったところはない車の運転席には、真剣な顔で前を向いてる大地さん。

男の人が運転する姿ってかっこいいよねと余計なことを思ってから、私も前を向く。



海沿いの道を走り出したところで、バスと同じルートで行くなら途中にあかりさんのお店があることを思い出した。

「あかりさんのお店にちょっと寄ってもらってもいいですか?」

大地さんは横目でこちらを見て、何も言わない。

「昨日お礼も言えてないし、アロマオイルも買っていきたいと思って忘れちゃったから」

言い訳みたいだけど嘘じゃない。もう一度会って帰りたいなって思っていた。「ふーん」と言いながら、大地さんは不満そうだ。



「おばあちゃんちに行かないですませたい?」

「そんなことはないですけど」

大地さんが苦笑気味にふき出した。怒ってるのか笑っているのかわからない雰囲気だ。

「ごまかすのがヘタだって言ってるだろ」

「なんでそんなところだけ勘がいいんですか」

「だけって何」

のんびりした大地さんらしくなく、かぶせるような勢いで聞き返してくる。

だって、わかってないんでしょ。私が普通に振る舞うのはもう精一杯だってこと。それともわかっててやってるの? 

こんな動揺した気持ちのまま、あんまり行きたくないと思っている林を一緒に抜けていくのは嫌だなって感じている。そういうの、わからないんでしょ。

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