花と光と奏で

独白

"ありえねぇ……"

自分の中に生まれた感情に困惑する。
女に対して初めて抱いた想い。


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俺には兄が二人いる。
4才上の双子の兄達。

文武両道で、見た目にも申し分のない二人を、周りの女達が放っておくはずもなく、常にその傍らには誰かがいて、見かける度に変わっていた"彼女"という位置の女。
今思えば、兄達も俺と同じ思いを抱いていたのかもしれない。


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俺自身を見ず、取り巻く環境や容姿に執着する女達。

この学校の理事長の孫というブランドに加え、建築デザイナーとして世間に名を馳せる父に、独自のブランドを持つファッションデザイナーの母。
そしてその母を通して、俺に時々持ちかけられるモデルの仕事。

今の俺にとっては仕事はバイト感覚で、小遣い稼ぎくらいにしか思ってなかったけど…ここ最近その立ち位置が変わってきた。

バイト感覚とはいえ仕事は仕事として認識しているから、当たり前だけど手を抜いたことはない。

そのことがかえって"いつかはプロで"と思わせたのか、"専属で採用したい"という話が出ていた。

来年早々に母が出す新作ブランドがその煽りの発端とも言えていて、そのブランドモデルに俺を起用したいらしい。

今ある母のブランドは、若者が手を出しにくい金額の設定ということもあり、そこを埋めるために立ち上がった話。

詳しく聞いてみれば、某女性ブランドとのコラボ企画ということだった。

別にモデルを仕事とするのは嫌じゃない。
それどころか、俺の肌に合っているのか仕事は楽しいと思っているから、実際はその話が出たことは俺にとって有難いことなんだと思う。

だけど今まで男性ブランドのみのモデルとして仕事をしていたから、余計なことからも感傷されずに楽しめていたけど…

当然その新規の仕事となれば、絡んでくるのは女。

それを考えると、正直なとこ面倒くさい。
うぬぼれではなく、女からのアプローチが簡単に予測できて、なかなか“OK”の返事が出せずにいた。

仕事は好きでも今の立ち位置でさえうんざりしていた俺は、俺自身にプラスされるであろうしがらみを、自分で増やす必要はないと思っていた。


来るもの拒まず。


それが自分に纏っていたから。
わかっているけど、取り払うつもりはない。


“〜も数撃ちゃ当たる”は未だにその脇をすり抜けていて……


俺自身を見て欲しいという思いは、どうしようもない俺の中にあって…その中で俺自身を見つけて欲しい。というこじらせた感情がそこにこだわらせていた。

矛盾しているけど、それが俺だった。

相手ばかりに求めるのは間違っていることも、それが自分の目を曇らせていることも、全部わかっているから本気にならない自分にも嫌気がさしていた。

だから了承の上での関係に、愛情を感じることなどは一度たりとも、かけらさえもなくて…

我ながら酷い男だと思う。

だからこそその中で実践出来ていない、譲れないことが一つの目安になっているのかもしれなかった。


“キス”


なぜかそれは自分の中では特別に思えて、ねだられても俺がそれに応えることはなかった。



“キスをしたいと思える相手=愛しい女(ヒト)”



俺の中での一種のバロメーター。

そんな俺だったのに……

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