花と光と奏で
5限前の予鈴が鳴ったと同時に俺は教室を出た。

朝からずっと休み時間のたびに俺の元へと訪れる人波。
他学年までもが俺に詰め寄る。のわりには、相変わらずハッキリしないヤツらの相手をするのに疲れてきた俺はあの場所に立っていた。

彼女を初めて見た屋上。

目の前に見えるのは中等部の校舎。

俺はフェンスに両ひじを預け、今朝の七聖の言葉を思い出す。

あの爆弾発言のあと、豪快に笑っていた顔をいつものポーカーフェイスへと戻した七聖は、

“協力はしない。あえて俺と紫音の関係をバラしたのは本気のお前が見たいのと、
……もう一つ、賭けてみたいんだ…”

と、至極冷静な声を発した。


協力は必要ない。
二人の関係には驚いたけど、そんなこと微塵も頭に浮かばなかった。
俺は俺のやり方で彼女を手に入れたい。……とは思ったものの…どうするか…?
今までアプローチというものに経験が無いわけで、その経験値の低さに嘆息する。
しかも昨日の今日でこれだけの噂。
それだけ彼女が注目されているかがわかった。

俺を見る羨望の眼差しと、それに混じる冷ややかな目。
羨望はそのままの意味として………
もう一方は…俺のこれまでの行動に対してか…

苦笑が漏れる。

確かにおいしいとこ取りだったし、……今回もその類いと思われてるんだろう…
でめ悔やんだところで過去は変えられない。
なら、その認識を新たなものに塗り替えるまでだ。
地道に攻めるつもりだったけど、いろんな意味で余裕なんてあるわけがなく…


「花姫か…」


俺はその名称をこぼれるようにつぶやいた。

有名だったその存在。

そこでふとそのことに疑問が湧き起こった。

俺が周りを気にしない性格(タチ)にしても、同じ学校内であそこまで有名だったのに…

何で気づかなかった?
普通に考えても2年間は同じ敷地内だったのに?
しかも中等部では被ってるはずで…
中途編入を受け入れる制度のない学校だよな…?

妙に知らなかったことに違和感を感じる。
俺の認識不足以前に、何か他に理由があるんだろうか…
七聖なら…

そこまで考えてハッとした。

初めからこんなんでどうするんだ。

「ハッ」

今度は苦笑が声に出た。

そこは追い追い行くとして、まずはそのためにももっと近づかねぇとな……
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