遅刻ノート
〜〜第3章〜〜

世界は「日本」と、「日本以外の国」に分裂した。日本はすべての国の敵となり、国としての地位、国連での発言力を失い、諸外国との関係も最悪の状況に陥ってしまっていた。


一方チコによって樹立した新しい世界、「新世界」の「世界新政府」の地位を確立しつつあったのは、これまでの世界の警察たるアメリカではなく、イギリスであった。

神林もテレビを見ていて気がつくようになっていた。これまでの世界では、外国で何か大きな事件があると、「この事態を受けて、アメリカの反応は…」と必ず報道されていたのが、遅刻神チコのイギリス移転以降、「……イギリス政府は……」と必ず報道されるようになったのだ。

世界はチコを有するイギリスの顔色を伺うようになったのだ。

「アナタ、またお仕事のことを考えているんでしょう」
橋高である。

「あ、ああ……、橋高……」

「そういえば、こんな話を聞いたわ。『やすらぎフィフティーン』っていうのが流行っているんですって。知ってる?」

「い、いや……。お前、口調変わったよな、橋高……」

「そんなことは気にしなくていいの。やすらぎ15っていってね、仕事や待ち合わせの時間に15分遅れていくのが流行ってるんですって。流行ってるっていうか、もう、そういうライフスタイルなのね。
それで、みんなこれまで遅刻が許されない大変な世界を生きてきたから、あえて15分遅れることで、待っている人に15分のやすらぎを与えるやさしさのことを言うの」

「ぜんぜんやすらげないわ!何かあったかと思ってハラハラするわ!それに老人関係の政府の企画みたいな名前はやめろ」
神林のツッコミである。

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