派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~
「何処かの馬の骨と付き合ったって、結婚するわけにはいかないのよ。
 蓮様には、きつく言って育てたはずなんだけどね」

 実質、蓮の実の親より親的な友江はそう言う。

「心配ないよ。
 やっぱり、似たような人間の方が落ち着くのか、ぼちぼちな地位の人だよ」

 家自体は、ぼちぼちどころではないが、渚がそれを継げるかどうかはわからないから。

 稗田会長は、孫の渚を可愛がってはいるようだが、仕事に関しては、非情なようだから、蓮の祖父とは違い、可愛い孫だということを理由に後継者に選んだりはしないだろう。

「自分は平凡な家庭を作るとか言って飛び出して、社長捕まえてりゃ世話ないよね」

 これだね、と弁当の包みをテーブルから取った。

「でも、蓮様には、ご婚約者もいらっしゃるのに」

「それだよ」
と勝手口で靴を履きかけて、未来は振り返る。

「それがまずかったんじゃないの?
 和博さんが嫌で飛び出したんじゃない?」

「確かに、和博様は、顔と家柄以外に取り柄はないかもしれないけど。
 まあ、性根もそれほど悪くはないし、そこそこですよ。

 小さなときから、喧嘩しながらも、一緒に居らしたし」

 それがまずいんだと思うけど、と思いながら、立ち上がった。
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