心に届く歌
-10-








『コンコンコンッ』




午後4時。

必ず聞こえる、控えめなノック音。




「良いわよ」

「失礼致します」




入ってきたシエルは、隙間なく燕尾服を着こなしている。

ボロボロになってしまい新しく変わった燕尾服だけど、デザインはこの間と全く一緒。



「今日もあるのかしら?課題」

「あります」

「じゃあ頑張ってね」

「はいっ」



シエルはわたしが使う机に向かい、ペンを走らせ課題を始める。

わたしはその姿を、何もせず静かにジッと見つめていた。



「……エル様、見つめすぎて恥ずかしいです」

「良いじゃない。気にしないで頑張って」

「はい」



シエルは迷惑そうではなく、むしろ嬉しそうな声音だ。

机に向き直ったシエルは、再びペンを走らせ始めた。




シエルの生い立ちを聞いてから数ヶ月。

季節は完全な夏になった。

毎日暑い日々が続く中、シエルは真面目に学校へ行っている。



再び通い始めたころは、周りが村出身だと知っていることもあり、冷たい目線で見られることが多かった。

でも最近では、シエルの成績が右肩上がりになっているのを見て、冷たい目線を送る生徒は少なくなってきたという。

何より学校内でもかなりの力を持つクザン家の息子・アンスが傍にいるから、嫌がらせなどは合っていないようだ。




シエルは毎日決まった時間に帰宅しては、多く出される課題を解いている。

最初の方はアンスに聞きながら取り組んでいたみたいだけど、最近では自力で解けるほどまで実力は上がっている。

今ではアンスもシエルに聞いて教えてもらうことが多くなってきたとも聞いた。




変わらず少食だけど、朝昼晩しっかりご飯も食べているから、痩せていた体もしっかりしてきた。

背は元々高かったので、良いスタイルになってきている。

前髪は長いけど、基本艶や髪質が良いため、風により髪が揺れるのを見ているととてもかっこよく見える。



そのためアンスには気持ちを隠すとは言ったものの、

隠しきれないほどシエルにわたしは惚れてきていた。




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