心に届く歌
Epilogue






☆エルside☆




「シーエル!報告があるんだけど」



ソファーに座りバスタオルで頭を拭いていたシエルの前に立つ。



「どうされました?エル様」

「……シエル?」

「あっ…!ごめんなさい…どうも慣れていなくって」



結婚式があった夏が過ぎ、短い秋になった。

季節が変わったというのに、シエルは今も敬語が抜けない。



「まぁ良いわ。あのね、話があって」

「何です?」



首にバスタオルをかけ、シエルがぎこちなく笑う。

自然に笑えるようになったと思ったけど、どうやら一時的だったらしい。



「実はね、お腹に赤ちゃん宿ったの!」

「……は?」

「わたしとシエルの子どもが出来たんだよ!」



シエルは時が停止したかのように止まる。

わたしが「おーい?シエル?」と呼びかけても数分間反応がなかった。



「……ごめんなさい。なかなか状況読め込めなくて」

「わかるわよ、突然だものね」

「……性別は」

「まだ決まっていないわよ。
だって今日のお昼に聞いたんだもの」



結婚してからわたしは本格的に、お父様について回り、国王としての仕事を学ぶようになってきた。

教科書などで学ぶより実践的で、難しいことも多いけどなかなか楽しい。

同じようにシエルもお母様につき、国王を支える役目を勉強している。

昨日シエルはかなり忙しかったようで、お休みの今日は朝からずっと寝ていた。

その間にわたしは検査などしたので、シエルが知らなかったのも無理はない。




「名前、どうしようかな?シエルつけたい名前ある?」

「…………」

「シエル?」



シエルは無言でバスタオルで頭を拭くと、すくりと立ち上がった。



「髪、乾かしてきます」

「えっ、ちょ、シエル!?」



パタパタと部屋を出て行ってしまう。

わたしは思ったよりも喜んでくれなかったシエルに、ちょっぴりガッカリしていた。

もしかして子ども好きじゃなかったりする?




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