ポラリスの贈りもの

(スターメソッド7階、社長室)


カレンさんと浮城さんはというと、
私と別れた後すぐに7階にある社長室へ向かい、
ほっとするのも束の間、
それぞれ次の仕事と社長の厳しい指示を受けていた。



神道 「カレン。
   引き続き編集作業から仕上げまで一気にやってくれ」
カレン「はい」
神道 「陽立。
   お前はこれからすぐ勝浦の現場に戻ってくれるか」
浮城 「あの、神道社長。
   カレンはこのままうちで仕事を続けられるんですよね」
神道 「ん?」
カレン「陽立、もういいの。
   私はもう覚悟ができてるんだから。
   神道社長。私の今後のことは社長にお任せします。
   どんな処分でもどんな結果でもすべて受けとめます。
   でも、星光さんは勝浦での仕事を続行させてほしいんです」
神道 「星光さんと仲直りしたのか」
カレン「はい。私が間違っていました。
   彼女は努力家で仕事のできる子です。
   京都では私の撮影助手を完璧にこなしました。
   なので彼女をまた勝浦で、
   七星さんの許で働かせてください」
神道 「そうか。
   (当初の約束通り、カレンを改心させられたんだな)
   彼女のことよりカレン。
   君には旅行代理店の仕事が終わったら、
   “四季”の仕事に戻ってもらう」
カレン「えっ」
神道 「但し、行くのは勝浦の現場ではなく、
   映画撮影の行われている浜行川の現場に行ってもらう。
   いずれ勝浦では別荘もペンションも引き払う。
   Bチームを社に戻し、AとCでチーム編成をし直して、
   撮影を分けるつもりでいる」
浮城 「神道社長。
   そのことはカズや流星は知ってるんですか?」
神道 「いや。だが、海での撮影はほぼ終わったからな。
   来年からは次の作業に取り掛かってもらうために、
   皆を徐々に通常の状態へ戻す。
   これからのスケジュールは明日、
   光世から伝えさせるつもりだから、
   勝浦に戻っても七星たちにはまだ言うなよ、陽立」
浮城 「はい……」
カレン「勝浦の別荘を引き払うっていうことは、
   星光さんの仕事は…」
神道 「そうだ。
   彼女は勝浦に戻っても仕事はない。
   臨時募集の人材は根岸と田所以外は今年で契約完了。
   だから彼女も解雇ってことだ」
カレン「そんな……」
浮城 「社長、お願いです。
   撮影助手で星光さんを再雇用してもらえませんか。
   カズの許が駄目ならカレンの許でもいいんです。
   京都で彼女はいい仕事をしてくれてました。なので」
神道 「陽立。カレン。お手手繋いでもいい加減にしろ!」
浮城 「……」
カレン「……」      
神道 「勝浦でのお前たちの騒ぎで時間のロスは疎か、
   主力カメラマンのカメラまで壊れて、
   多大な損失まで出てるんだぞ!
   作業も撮影も当初の予定から大幅に遅れてる。
   カレン。君がやった失態だぞ。
   よく現状を把握しろ!」
カレン「は、はい」
神道 「俺はお前を許したわけじゃない。
   もちろん給料は減給、ボーナスはカット。
   減給分は損失分として補てんさせてもらう。
   そして星光さんの申し出通り、
   お前を戻す代わりに彼女には辞めてもらう。
   これは、京都に行く前から決定していることだ。
   分かったな、二人とも」
カレン「……」
浮城 「それじゃあ、あんまりでしょう」
神道 「陽立。なにか不服なのか」
浮城 「ええ、不服です」
カレン「陽立!?」
浮城 「それじゃあ、星光ちゃんが可愛そうでしょう。
   彼女はカズしか、俺たちしか頼る人間が居ないんですよ。
   今じゃ住むところもないんだ。
   このまま職まで失ったら、
   彼女はどうやってこの東京でひとり生きていくんですか!
   社長が自らが、彼女の勤め先まで行って、
   ヘッドハンティングしたんですよね!
   CCマートの店長にまで掛け合って」
神道 「ああ。そうだが?」
浮城 「なのに、用が無くなったら即解雇ですか。
   スターメソッドなら、
   彼女ができる仕事が他にもあるはずでしょう。
   今までうちで縁のあった人材は、
   部署替えしてきたじゃないですか。
   なのに彼女だけ例外ですか!?
   星光ちゃんの人生をなんだと思ってるんだ!」
東  「陽立!」


北斗さんと私のことを心配して憤慨し、
神道社長に詰め寄る浮城さんに、
待ったをかけるように割って入った東さんの声。
東さんの後ろにいた私の姿をみた浮城さんとカレンさんは、
急に言葉を詰まらせた。
新幹線で執拗なほど私を引き止めていただけに、
神道社長の決断に二人の反発した姿が想像できる。
そんな二人の気持ちとは裏腹に、
解雇という単語に心のどこかでホッとしている私もいた。
社長室の空気は一気に緊張感が漂い、
私の身の上も大きく変わっていく様相を見せていたのだった。

(続く)


この物語はフィクションです。
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