約束のキミを。
第二章~楽しい時間~

私とレン

「ふぁー。もう朝ぁー」

今は初夏、病院のカーテンを開けると、眩しいほどの光が差し込んでいる。でも、時計を見てもまだ、6時過ぎ。

遠くのナースステーションから、朝の巡回の準備の音が聞こえる。

よし!本でも読もうかな。

私は、引き出しにギッチリと並んだ本の中から、髪長姫を選ぶ。

私の、お気に入りの本。
高校生にもなって、童話は子供ぽいのかもしれない。
でも、小さい時いろんな世界を見せてくれた童話にずっと救われてきた。

だから、童話がすごく好き!
日本語でも読んだし、英語で書かれた童話も読んだ。何度読んでも、小さい頃のあの、ときめき感は忘れられない。

挟んでいた大切な栞を抜いて本を読み出す。

「おはよ!朝、早いね!」

声がして、顔を上げると目の前のベッドのレンが、こっちを見ていた。

なんか、変な感じ…。昨日までいなかったから…。

「おはよう。レン。ごめんなさい。起こしちゃった?」

「ううん。今までサッカーの朝練で朝早かったから、なんか癖で起きちゃうんだよなぁー」

レンが、あくびをしながら笑って答える。

「で、みくは、こんなに早く起きて何やってるの?」

レンの、大きくて綺麗な瞳が興味しんしんに見つめてくる。

レンって、子犬みたいだ。

「本読んでるんだよ」
私は、分厚い冊子の本を渡す。

「そうなんだー。ってこれ、英語じゃん!」

驚いたように、こっちを見る。

表情がコロコロ変わるレンは見ていて、楽しい。


「うん。私のお母さん。外国人だから、私は、ハーフなの…。って言ってもお母さんかなり長く日本に住んでるから、ほとんど日本語しか話さないけど…。
でも、一応お母さんとか親戚の英語聞いてるけど、まだまだ英語のお勉強したいし!少しずつだけど、読んでるの。」


「すご!これ、なんの本?」

「うーん。髪長姫かな…。塔の上に住む髪の長いお姫様の話。
知らない?」

「あー!あれね!知ってる!なんかさ、みくっておとぎ話似合う。これにどことなく似てるし!」

そう言って、レンは本の挿絵のお姫様を指す。


挿し絵の悲しげな表情のお姫様をじっと見つめてみる。

確かに、そうかもしれない…。

私の髪は、ウエーブのかかった腰より長い髪。

目も髪もブロンズがかった茶色。

外に出れないから、肌の色も白いまま。



なにより、塔にひとりぼっちでいる。









「俺、昨日みくに会った時、驚いたよ。こんなにも小さい同い年がいるのかって!」

歯を見せて、からかうように言う。
 
「レン!失礼だよ!私ちっさくないもん!レンだって、そんなに高くないでしょ?」

「えー。俺も、小さくないもん!」

レンが、私の真似をする。


確かに、私の身長は高1にして146センチしかない…。
平均身長と比べたらかなり小さい…。


けど、レンもそんなに高そうに見えない167センチとかそのくらいかな…。和斗が高いからかもしれないけど…。

「もう怒ったもんね!許してほしかったら、みく、この病院を案内してよ!」

レンがむくれた顔でこっちを見る。

「私も、ちび扱いされたのにー!」

今度は、私が真似をしてむくれた。




お互いほっぺを膨らませたまま睨み合う。


そして二人で顔を見合わせて、吹き出した。



「んー。しょうがないなー。どうしてもって言うなら案内してあげてもいいけど…。」

「どうか、よろしくお願いします!」


「素直でよろしい!」

私がにっこりと笑うと、レンもまた微笑み返してくれた。








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