私はくるくる落下中。
2
クラブから出ると、空は夕暮れだった。
茜色が紺色に染まろうとしていたところだった。
ようやく吸えた新鮮な空気―――ここは夜の街なので酒の匂いはひどかったが、クラブの中よりは随分と楽だった―――を胸いっぱいにため込み、吐き出した。
少しだけ、頭痛が収まった気がした。
すると、カバンの中に仕舞ってあったケータイが震える。
画面を確認すると、いつも脳内に鎮座する存在からの着信だった。
すぐさま通話ボタンを押すと、
「出るの早い」と鈴のような声が聞こえてきて、顔がにやけた。
「どうした」
簡潔に聞く。
『べつに…深い意味はないわ。今日も学校来なかったね。不良め』
受話器の向こうで意地悪く笑っている姿が浮かぶ。
「うるせーよ。今から会えるか?渡したいもんがある」
先ほどオーナーからもらったアルモノを思い出し、電話の向こう側に問いかける。
『どこに行けばいいの?』
いたって普通の声音で、向こう側が反応する。
「お前今学校だろ?」
今は午後6時過ぎ。生徒会役員であるそいつは、まだ学校にいるはずだ。
『さっき会議が終わってね、今から帰るとこよ』
「いつもの校舎裏で待ってろ。すぐ行くから」
『慌てなくても待っててあげるわ』
じゃあ、と電話は一方的に切られる。
まったく釣れない女だ―――…。
だが、俺の足は速く会いたくて走り出すのだ。
・