また、部屋に誰かがいた
なるほど、たしかに正論だ。
これまで彼女と同棲したことも、その彼女と別れてしまったことも数回あったが、1度はたまたま僕が彼女の部屋に転がり込んだ形だったし、他はいずれも僕の転勤で遠距離恋愛となって別れてしまった。
だから、一緒にいた彼女が居なくなった部屋で生活をしたという経験がなかった。

弁当を食べ終わった僕は飲んでいた缶ビールを片手にテレビの前のソファに移動した。
テレビを点けると心霊現象を科学的に検証するという番組をやっている。
「幽霊というものが人々の間で認知されたのは、かなり古く、そもそもは家族など愛する者が亡くなってしまったことに対して、その現実を受け入れることができず、愛する者の魂が幽霊という姿になって現れるというものが主流でした。19世紀に降霊を行って報酬を得ていた者が詐欺罪として裁判にかけられたことがありましたが、被害者は皆、彼を擁護したそうです。彼らにとって嘘でも降霊というものにより今はなき死者を霊として感じられたことは癒しだったのです。それが日本では江戸時代にスリルを楽しむ怪談の流行により、やがて幽霊は人々に災いをもたらす悪しきものに変化していきました」
その後、番組では心霊写真が技術的な原因で撮影されることや、霊体験といわれるものが科学的に立証できることを解説していた。
それを興味深く見ていると
「ねぇ!ねぇ!蛍、見に行かんけ?」
隣で彼女が僕に言う。

そう、いつもこんな風に
僕がテレビとかに熱中していると、つまんなそうに「外に行こう」と誘ってくる。


蛍って、この前行った公園やろ?あんとき一匹もおらんかったやん

「今日行ったら、おるかもしれんけ!ねぇ!」

うーん!どうしよっかなぁ…

すると彼女は残念そうに眉毛をハの字にして

「え~…たいぎぃ?(たいぎ=面倒くさい)」

そういうわけでもなかったんだけど、結局、僕は彼女の誘いを断ってしまった。


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