ノラネコだって、夢くらいみる
 逢阪は、私に言った。

〝お前がどうしたいか〟

 ……ただ毎日が過ぎればいいと思ってたのに。

 〝何がやりたいか〟

 やりたいことなんて、わからないのに。

〝ちゃんと決めてみろ〟

 …………決める?私が、私自身のことを?

 おじいちゃんが、雑誌を手に取って、パラパラとめくり始める。異様な光景だ。

「今時の子は、こんな若い時から、髪を染めてるんだなぁ。化粧も、凄いな」

「りんちゃんは、黒髪が似合うのにねぇ」

「いや、おばあちゃん、別に仕事することになっても、染めるって決まったわけじゃないからね」

「そうなの?」

 ふっ、と思わず吹き出してしまう。

「おじいちゃんもおばあちゃんも、おもしろすぎっ……」

 ………あれ?私、今、大笑いしてる?

「勉強しないとね。りんちゃんと一緒に」

「今度、服でも選んでもらおうかね」

「無理無理。私、センスないし」

 と言いながらも、ちょっと、2人に似合いそうな服を選んでみたい、なんて思ってしまった。

 それが伝わったのか、2人がこっちを見てニコニコしている。

「おじいちゃん」

「うん」

「おばあちゃん」

「なあに?」

「私、上手くできるかわからない。自信もない。でも、やってみたいって思う。やりたくなったの。いいですか……?」

 なぜなんだろう。自然にそんな願いが口に出てしまった。

「よく言った、鈴」

 おじいちゃんが笑った。

「鈴ちゃん。応援するわよ」

 おばあちゃんの目が、潤んでいた。
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