ノラネコだって、夢くらいみる
 楽しい。ネトゲとはまた違う楽しさ。

 ………!やった!私の勝ち!!

「あーあ。負けちゃった」

「どんなもんだっ」

 そう言って振り返ると、すぐ近くに、いちるの顔があった。とっても綺麗な、女の子のような素顔。

 私さっき……この唇とっ………

「鈴ってさぁ」

「へ?」

 気の抜けた返事をしてしまったので、

「な、なによ!」

 急いで言い直す。

「初恋が、社長なの?」

「なんで私が逢阪に恋しなくちゃいけないのよ」

「他に誰か好きになったことないの?」

「ない。ってか、逢阪だって好きじゃないって、何度言えば…」

「僕、好きってよくわからなかったんだけど。最近やっと、恋したんだ」

 ……え?いきなり、恋愛相談?

「僕の好きな子は、仕事場に、突然現れたんだ」

「へー」

 ってことは、モデル仲間?それか……関係者の誰か。

 ひょっとしたら外で撮影していた時のファンの1人かもしれない。

「最初、ちっちゃくて、小学生かと思った」

「そうなんだ」

 意外。いちるなら、綺麗なお姉さんが隣に並んでる構図の方が、絵になる。

「だけど真っ白な制服を着ていたから、中学生くらいかなって」

 奇遇。私の学校も、白だ。

「いつからいたかは知らないけど。撮影で撮った写真の表示されるモニター前で、目を輝かせてた」

 ………ん?

「そのとき、思ったんだ。ああ、この子、こっちの世界にくるんだなって」

「………」

「一度見つけてしまうと、目が離せない。愛くるしい。そんな子」

「………」

「社長からは手を出すな、なんて忠告されたけど」

___!?

「なんか……ちょっと似てるね。私といちるの出会いに」

「鈴だよ」

「ふぁ?」

 また、変な声を出してしまった。

「ね、鈴。僕どうしたらいい?」
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