縁〜サイダーと5円玉と君の靴ひも〜
なんでこんな話、真木陽色なんかにしているんだろう。

私やっぱ変だ。


「変じゃないんじゃない?お母さんのことが好きで、信用してるってことでしょ。お母さんが選んだ人だから受け入れられた。違う?」


少し私を覗き込む陽色の表情は相変わらず読めないけど、あったかい。

私の気持ちを分かろうとしてくれている、真木陽色の優しさが妙に沁みる。


ちょっと待って、涙腺ゆるんじゃうから・・・

暑くもないのにパタパタ扇いで涙をひっこめる。


「ただ、血がつながってないっていうだけのことだよ。血がつながっていたって分かり合えない親子だっているわけだし」


真木陽色の言葉に顔を上げて敏感に反応してしまった。


「真木陽色は、そうなの?」


こんな問いに答えるような奴じゃないけど。


「ふっ」

真木陽色が笑った。


「フルネーム?陽色でいいよ」

今まで呼び過ぎて普通になっていたけど。

確かにフルネームもおかしいのか。


「あ、じゃあ…陽色」

「何?」

陽色は普通に返事してるけど、私だけがちょっと緊張してしまったよ…


「私、この前イケメン風勘違い男にブスって言われたのよ。でも、見てよ。在花も母さんも、琥珀だってブサイクじゃない。私だけ顔が違う…」

陽色は私たち家族を順番に見ていく。


一周して私に戻ったところで、目が合う。


「私は父に似てるの。私たち家族の中では父の話はタブーな感じで誰も私を父に似ているなんて言わないけど。私は…母さんを悲しませた父に似てるの。それは変えられない」

陽色の視線が私に向けられたているけど、私はうつむいたままその視線をおデコで感じていた。


「俺は…きょうだい3人似てるって思うけど?」

陽色の予想外の言葉に、思わず顔を上げた。


「でもさ、相内は相内じゃん。生まれたきっかけは親かもしれないけど、今は自分の人生自分や今周りにいる人たちで作ってるんだから」

穏やかな声が心地よく響く。

陽色ってこんなしゃべり方するんだ。

こんな優しい声で…

胸がギュッとなる。


今の私は自分が作ってる…

そうか、私が生まれたのは父と母がいたからだけど。私は今自分で考えて自分で決めて、みんながいてくれることで今の私がいる。


「例えば…笑ってる時、特に似てるよ?琥珀に」

「ちょっと!そこは在花とか母さんでいいとこでしょ?」


開け放った窓から風が吹いて、前髪が浮いた瞬間。
いたずらっ子みたいに笑ってる陽色の顔が一瞬見えた。

無邪気な表情に時が止まる。

なんでこんな男にこんな…胸が苦しくなるの…


「と、とにかく!今日のことも今行ったことも口外禁止だからね!」

クッションを投げつけて庭へ出た。




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