アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
10章 ブランコ
薫と会ってどんな話をしているんだろう。

自転車を押しながら、月を見上げた。

・・・薫は私のこと、何か拓海に言うだろうか。

美鈴が見ている月の光が急に冷たく感じられた。

別に拓海と付き合ってるわけじゃない。

自分の好きっていう気持ちは、どうしようもないもの。

美鈴は、自分は悪いことしてないって必死に自分に言い聞かせる。

サドルを持つ手に力を込めた。

友達と一緒の人を好きになるって、こんなにも辛いことだったんだ。

拓海が恋ができないとわかってて好きになってしまうこと以上に辛いことだと思った。

商店街を抜けると大通りに出た。

ビールを飲み過ぎたのか、車道を走る車のランプがまぶしく感じる。

「今日はよく会うね。」

正面から声をかけられた。

車道をバックに立っているその人の顔がランプの逆光でよく見えない。

目を懲らしながら近づいていくと、警察・・・奏汰だった。

「あ、お疲れさまです。」

「巡回中なんだ。こんな遅くにウロウロしてたら補導されますよ、お嬢ちゃん。」

奏汰はふざけた調子で、美鈴の頭を軽く叩いた。

「もう成人過ぎてますから、これくらいの時間では補導されませんから。」

そう言いながら、今奏汰に出会えてホッとしている自分がいた。

このまま一人きりで家に帰ることが怖かったから。

奏汰は、一緒にいたもう一人の警察官に敬礼して、「先行っておいて下さい。」と言った。

そして、美鈴に向き直って、「危なっかしいから、途中まで送っていくよ。酔っ払いの誘導も仕事の一つだし。」

と笑った。

「酔っ払いって、失礼な。でも、そんなお酒臭い?」

不意に心配になって自分の腕や服の匂いを確かめる。

「お酒臭いってか、そのトロンとした目と、ちょっとおぼつかない足取りは間違いなく酒だろうが。」

「あはは、見た目だけでばれちゃうなんて、私もまだまだだねぇ。」

美鈴は笑った。

「あ、ようやく笑ったね。公園で会ったときから気になってたんだ。珍しく落ち込んだ顔してたから。」

「そ、そうだよね。確かに落ち込んでた。」

「何?男にでも振られたか?」

奏汰は、周囲を見回し巡回しながら尋ねた。









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