Another moonlight
何も言わない優しさ



1週間が過ぎた。

あれからアキラは、仕事が終わってから寝るまでの時間のほとんどを、カンナと一緒に過ごしている。

毎日仕事を終えて自宅に戻ると、スーパーの買い物袋を提げたカンナが部屋の前で待っている。

あの翌日に髪型や服装などを元に戻したカンナは、毎日嬉しそうに笑いながらアキラのために料理を作る。

アキラはカンナの手料理を食べながら、笑みを浮かべてカンナの話を聞いている。

最終のバスに間に合うようにカンナをバス停まで送りバスに乗るのを見届けた後、アキラは自宅までの夜道を一人で歩きながら、固まってしまった顔の筋肉を揉みほぐす。

一緒にいる時間が長くなるほど、アキラは顔面に作り笑顔の仮面が貼り付いたような錯覚に陥って、カンナと別れた後は鏡で自分の顔を見ると吐き気がする。

恋人と一緒にいるのは、こんなに息が詰まるものだろうか。

カンナはアキラをユキのところへ行かせないために、アキラに一人の時間を与えないようにしているのかも知れない。

いつも手元に置いて見ていないと不安なのだろう。

アキラにはその気持ちがなんとなくわかるので、カンナが毎日会いに来ることを拒まない。

毎日カンナと過ごすのが当たり前になれば、こんなに息苦しくなることも、違和感を覚えることもなくなるのだろう。

それにカンナと一緒にいれば、ユキのことを考えないようにしようと苦しむ時間も減るはずだ。

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