Another moonlight
誰と付き合っても長続きせず、恋愛においては誰にも執着しない彼をただ見ているだけで、その気持ちに気付かれることもなく何年も想い続けた。

その一方でユキは、別れても痛くもなんともない距離感を保てる何人かの人と付き合ったりもした。

本当に好きな人には想いを伝えることもできず、自分を好きだと言ってくれる人との適当な付き合いばかりを繰り返しているうちに大人になり、彼はいつしか遠い人になった。

今でもその彼を好きなのかと言うと、自分でもよくわからない。

彼の恋愛対象になることをあきらめたのは、もう随分昔の話だ。

今更好きだとか付き合おうとか言っても信じてもらえそうもないし、もしそれが原因で友達でいることもできなくなってしまったらと思うと、簡単には口に出せない。

結局、この想いは永遠に胸に閉じ込めておくか、忘れてしまうしかないのだろう。

(なんで今頃になって思い出すんだろ。もうずっと前にあきらめたつもりだったのに。)

思い返してみればろくな恋愛をして来なかったなと、ユキはため息をついた。

そもそも、恋愛なんて呼べる代物だったのか?

いい加減現実を見なければと思うほど、胸にモヤモヤと複雑な思いが込み上げる。

なんだか無性に飲みたい気分だ。

(そうだ…こんな時は…。)

戸締まりを確認してサロンを出ると、ユキは自宅とは真逆の方向へ歩き出した。



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