Another moonlight
タカヒコの妙な様子に気付き、後ろに何かあるのかと振り返ったユキは、普段とはまったく違う顔をしたカンナの姿に驚いた。

「どうかしたの…?」

ユキが尋ねるとカンナは立ち止まりうつむいて、低い声でブツブツ呟く。

「どうして…私の大事な人ばかり…。」

「…えっ?」

「どうして私から大事な人を奪うの…!!」

カンナは涙を流しながら鬼のような形相で叫ぶと、右手でバッグの中から何かを取り出した。

その手には鋭い刃先を光らせたナイフが握られている。

ユキは驚きのあまり絶句して立ちすくんだ。

店内に悲鳴が上がる。

周りが止める間もなく、カンナが握りしめたナイフの刃先をユキに向けて突き進んだ。

「カンナ!!やめろ!!」

アキラが必死で叫んで手を伸ばした。

その次の瞬間。

カンナはナイフを握りしめたまま、アキラの腕に抱きしめられていた。

赤い滴が床を染める。

それを見たユキは頭の中が真っ白になり、身動きひとつ取れない。

カンナはアキラの腕の中で呆然としている。

「アキ…くん…?」

「カンナ…やめてくれ…。こいつは…ユキは、何も…悪くない…。」

アキラは刺されても尚、ユキを守るために痛みを堪え、ありったけの力を振り絞ってカンナを抱きしめている。

「アキくん…なんで…?」

「カンナ…ごめんな…。オレには…何してもいいから…ユキを…傷付けないで…くれ…。」

アキラは傷口から血を流しながら、途切れ途切れに話す。

マナブがアキラの手をカンナからほどき、ユキを手招きして、その手にアキラを委ねた。

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