Another moonlight
「オレにはたいした取り柄もないし、自慢できるようなもんはなんも持ってねぇけどさ…ユキがいるからそれだけで最高に幸せだって、今は思うわ。」

アキラはなんだかずいぶん改まったことを言う。

ユキはもう少し深くアキラの考えていることを知りたいと思う。

「今は?じゃあ昔は幸せじゃなかったの?」

アキラはほんの少し寂しそうに笑って、遠くを見るような目をした。

「昔な…リュウとトモがヒロさんに見初められてロンドンに行った時、バンド解散したじゃん?マナもここを離れてカズヤと新しいバンドやったりしてた。」

「そうだったね。」

「あの時な…オレだけが取り残された気分になったんだ。オレにはあいつらみたいな実力がねぇんだなって、夢もあきらめてさ。」

バンドに夢中になっていたアキラが、あんなに好きだったギターを弾かなくなったのは、きっとその頃からだとユキは思う。

「うん…あの時のアキはホントに寂しそうだった。」

「仲間がどんどんここを離れてったけど、オレは離れられなかった。ここにいる意味があったからさ。」

「ここにいる意味って?」

ユキが尋ねると、アキラは優しい目をしてユキの頭を撫でた。

「なんもなくても…ここにはユキがいたからな。オレはユキとおんなじところで月が見たかった。それだけだ。」

それはユキを想い続けたアキラの素直な気持ちだったのだろう。

その言葉はとても自然にユキの胸にストンと落ちてきた。

ユキは照れ隠しに肘でアキラの腕をつつく。

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