slave children
free weeks

私は久々の開放感に浸っていた。
今週は年に一度のfree weeksだ。ここ数週間だけは、奴隷から解放されるのだ。

前の席の子が振り返ってくる。彼は、
私が六年間想い続けた、私の想い人だった。
「久しぶりだね。」
彼も、開放感に浸っているのだろう、笑顔だった。
「そうだね。」
私も笑顔で返した。
どうしてた、と聞こうとして止めた。そんなもの決まっている。どうせ何処かで奴隷扱いされていたのだろう。

私は、私達のこの不幸な境遇の原因に思いを馳せた。
人類は不老不死を手に入れた。百年くらい前のことだそうだ。医療技術の発達によって、人々は当時の年齢そのままで時を止めることが出来るようになった。
初め、人々は狂喜乱舞した。夢にまで見た不老不死が現実のものとなったのだ。しかし、次第に問題が明らかになって来た。死ぬ筈の人間が死なない一方、出生率は主に旧発展途上国で増加し続け、人口が爆発的に増えたのだ。
世界政府は、これ以上子供を増やさない措置として、見せしめとしての子供の奴隷化を採択した。
世界政府はほぼ旧先進国の意向を受けており、その国内では深刻な少子化が進んでいた。奴隷になるべき子供が極めて少ない旧先進国は、この採択を強行したと言われている。
もちろん、不老不死の医療を廃して、こんな馬鹿げたことを止めるべきだと主張した一部良心的な人々もいた。
しかし、大多数の人は、死の恐怖に抗えなかった。
この法が世界的に施行されたとき、ずいぶんとデモや、過激なところではテロもあったそうだ。
だが、結果として、人口問題は解決した。

私はこの事実を教えてくれた人を想った。彼女は見た目こそ二十代後半だったが、その当時から生きている人だった。
彼女に関わらず、大人たちはみんなそうだったが、長い生に飽き、情緒不安定な節があった。
彼女は普段は奴隷である私達にさえ優しかったが、気分の変化が激しく、私も何度も暴言を吐かれたり、殴られたりしている。
結局のところ、私達は、彼らにとってそう言う存在なのだ。

そこまで考えたとき、椅子がギシッと軋んだ。私達はもう十七だ。小学校の椅子なんて小さ過ぎる。

そう、私達は小学校にいた。もう、百年は使われていないので、廃墟に等しかったが、私達にとっては楽園だった。
freeweeksはランダムに発表される。私が奴隷として働く日々が延々続くと思われた日、突如連行されるようにして、此処に連れてこられたのだ。
初めてfree weeksを受けるとき、彼女がその存在を教えてくれなかったら、私は殺されると思い込んで逃げただろう。
いや、私は半信半疑だった。しかし、奴隷として扱われる日々が続くなら、殺されるのも、一興だと思ったのも事実だった。
初めて此処に連れて来られて、自由にしていいと言われた時、溢れてきたのは嬉し涙だった。
驚くべきことに、此処では衣食住がすべて揃っていた。提供させられる側だった私達が、提供されるのだ、この数週間は。

free weeksを受けるに当たって、幾つかの条件がある。
まず、男女交際の禁止。これを破ったものは、死刑に処せられる。
次に、読み書きの練習の授業を受けること。
そして、道徳、社会一般モラルの授業を受けることだ。
そこまで考えて、私は皮肉な気分になった。男女交際が禁止なのは、これ以上人口を増やしたくないからだ。
読み書きの授業はとても人気があった。18歳になって、成人したと見なされれば、文字を読めることは、これ以上ない大きな武器になる。
道徳の授業があるのは、奴隷扱いされた子供が急に社会に放り出されると、かなりの高確率で犯罪を犯すからだ。

私達は大人になっても、不老不死を享受することは出来ない。そんなことをしていたら、人口抑制の意味がなくなるからだ。私達は、いずれ、老いて、死ななければならない。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


free weeksはあっと言う間に過ぎて行った。最終日に近づくにつれ、みんなの表情が暗くなっていく。
この夢の様な数週間が終わったら、私達はまた元の生活に戻らなければならない。
私の様に個人の、それも割と良心的な人の召使いをやっている子は稀で、中には私の主人の女性が教えてくれた、産業革がこの日本自治区に入ってきた明治(と当時は呼んでいたらしい)時代並みの悪環境で工場で働かされていたり、強制労働並みの肉体労働を強いられている子もいる。
私は今十七、あと一年足らずで自由の身になれる。


私は昔は音楽室だった辺りの廊下を歩いていた。ふと、そう言えば私の女主人が音楽が好きだったなと思って、錆び付いたノブを回して中に入った。

中は割と傷みが少なかった。良い方だと言って良い。
一段高くなっている、ステージだろうか、そこにグランドピアノが一台置いてある。試しに鍵盤を一つ押してみたが、弦が錆びているのか、ギシッというキーが鍵盤にのめり込む音がしただけだった。
次に私は、本棚を見て行った。ショパン、リスト、ベートーベン、バッハ、、、。
一風変わったものを見つけて、私は手にとった。何かの劇だろうか、オペラ座の怪人と書いてある。

そのとき、ギギッという音と共に棚が開き、その向こうから部屋が現れた。





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