【Berry's Cafe版】やっぱり君にはかなわない〜花と光と奏でSS
再び戻ったフロアに現れた紫音と、その横に立つ俺の姿に少しざわついた店内。それも当然で、俺の左手はさりげなく紫音の腰に添えられているから。

だからそのざわつきは俺を気分良くさせる音にすぎなかった。

俺は高揚感に包まれて、“挨拶を”と言ってくれた客の前に紫音と共に二人で立った。

対面したのは20代後半のカップルで、数年前にこの場所で出会い、恋に落ちた。
その出会いを引き寄せたのが当時ピアノを演奏していた紫音のお母さん。その奏でる音が二人の物語をスタートさせ、また新たに婚約、結婚という人生のパートナーとしてのスタートへとも結びつけた。

そのお母さんの面影を紫音に見い出した二人が、お礼とともに、どうしても伝えたかったこと。


“出会いと出会えたこと、この場所にとても感謝している”と。


経営者ではないけど、ここは紫音のお父さんが愛しい妻のために手掛けた場所だった。
そしてまたその場所で愛しい娘が妻の想いを引き継いでいる。
出会いが巡り、新たな出会いを生み出していることが紫音の心に響き、その瞳に愛を溢れさせた。

その愛という名の涙に二人は慌てて戸惑いを見せたけど、

『ありがとうございます』

と英語ではなく、日本語でハッキリとお礼を言った紫音に何かを悟ったのか、二人顔を見合わせ頷き合うと、


「「お二人に会えて良かった」」


と笑顔を見せてくれた。

そのあと続けて俺に向けられた視線と言葉。


「あなたは“光”なのね」


それを聞いて思わず紫音を見下ろせば、すでに俺を見上げていた紫音の瞳とぶつかり、絡み合った視線。
自然と両口角が上がるのがわかり、二人で微笑み合った。

そのあとは、

「お幸せに」

と両者で願い合い、また再びバックヤードへ。
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