Dragon's Dogma ~数多の伝説に埋もれる一片の物語~
 領都の表門には手に思い思いの荷物を抱えた人々が溢れ出していた。あちこちから怒号や叫び声、泣きわめく声が聞こえる。それぞれの顔は怯え、悲しみ、怒り……様々な表情を湛えている。中には怪我をしている人もいた。なんなんだ?どうなっているんだ?でも、これじゃあ、人の流れに逆らって領都に入るなんてできやしない。裏門だ。あっちへ回ろう。こんなときは領都の大きさが恨めしい。こうしている間にもきっと被害は大きくなっていく。
 必死に走る。まともに息もできないぐらいずっと走り続ける。何度か血を吐いた。けれど、漸く裏門まで来ることができた。もう西の空はすっかり赤いヴェールを纏い、斜陽が城壁を赤く染め上げている。同じ赤なのに、口を拭った私の袖口よりもずっと綺麗。
 こちらにも数は少ないが、避難している人々がいた。数人の兵士やシスターが怪我人の治療にあたっている。
「私も手伝います。」
邪魔にならないように気を付けながら内部の状況のことを訊く。

 事の発端は、半島と僅かながら交易のある隣国から献上品として運ばれた鳥のような魔物の死骸。他にも種々の献上品が送られたんだけど、書類上で不備?があったそうで処理が進まず、あまりの量だったこともあり、とりあえず郊外の農産地区に保管することになったそうだ。そして、長城砦陥落の報。砦奪還部隊に多くの屈強な兵士が志願した。部隊が出発して暫くすると、それを見計らったかのように死んでいたはずの魔物が蘇り、暴れ始めた。また献上品の中に潜んでいた小鬼たちが飛び出し、街外れの墓地からは動く骸が現れ、人々を襲い、街を破壊して回っている。砦奪還部隊がなかなか帰ってこないところを見ると、何か足止めを喰らっているのかもしれない。

 状況が把握できた。私のやることは決まった。
「ここはお願いね!」
とりあえず息も整い、準備は万端。愛用の短剣と魔導弓を掴んで、城壁内へ駆け込む。広い麦畑も今は所々踏み固められ、金色の穂が無惨にも薙ぎ倒されている。胸がチクッと痛む。私のせいかも知れないんだ。
 そのとき、遥か向こうで喧騒が聞こえた。戦ってる!私はスピードを上げた。いた!数人の男、あれは兵士じゃない。おそらく自分たちの場所を、実りを守ろうと立ち上がった、普段は手に鍬を持つ優しい人々。赤茶けた肌の小鬼、ゴブリンの一団と交戦状態だ。よし!
「はい、みんな、伏せてぇ!」
突然の声に農夫も小鬼も手を止めてこちらを見る。魔導弓を構える私を見て、2人ばかし頭を抱えて地面に這いつくばった。上出来だよ。
 光る魔弾は全ての小鬼の頭や胸を貫き、瞬く間に絶命させた。私はアイツらはやっぱりキライ。サクヤ姉さんを失ったときの憎悪の炎はまだ胸に燻り続けている。まぁ、昔よりは冷静に自分を見られるようになったけどね。
「怒るのは分かるけど、無理しないで。後は私が、覚者マチルダが何とかするから!」
 献上品に隠れていたのはゴブリンばかりらしかった。もうここまでに何体屠ったことか。私の力が分かると、ヤツらは蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。別にそんなのは追いはしないよ。私が探してるのは鳥のような魔物と姉さんたち。これ以上、被害が大きくならないといいな。
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