七光りと七光り〜七光り嫌いな私が恋したのは、七光りでした〜
第一章
「朝よ〜!起きなさ〜い!!」

一階から、母さんの元気な声が聞こえる。他の部屋からは、ドアの開く音や足音、兄弟姉妹達のまだ眠たそうな声が聞こえてくる。
でも私には……それが憂鬱でならない。

「……ハァ、今日でこの部屋ともお別れか」

布団から出て、ふかふかのキングサイズのベッドを見やる。本当に、こんな大きいサイズ要らないのにね。
相変わらず過保護だな、なんて思いながらガランと荷物も殆ど無くなった部屋を見渡した。私は今日でこの家を出ていく。別に追い出されるとかそんな事じゃない……ただ、私がこんな家もう嫌だから出ていくだけ。後悔なんて……ある訳ない。

「これで、やっと解放される」

ふぅ、と一息吐きながら、私は服を着替えて一階へとおりていった。






「あら、おはよう翠」
「……はよ」

母さんの挨拶に、私は無愛想にそう返す。父さんは気まずそうにしながら私を見てるけどそんなの関係無い。今日限りで私は出ていくんだから。どうせコイツらもせいせいするんでしょ。
卑屈にそう思いながら、私は家族から少し離れた位置に座る。兄弟の一人であり、私の弟でもある三条京夜(さんじょう きょうや)は、嫌味ったらしく私の方を向いて口を開いた。

「お前さ、母さんに対して失礼なんだよ。お前が姉とか認めたくもねぇんだけど……ま、お前の事家族とも思ってねえし別に良いけどな」
「ちょっと、京くん!」

おーおー威勢の良い事で。
言ってやった、みたいな顔でいる京弥にその双子の弟である三条奏夜(そうや)は、やめなよ!と京夜の袖を引っ張っている。

「奏夜、別に止めなくていいよ。ああでも、一つだけ言っとくわ。お前を弟だと思った事無いから、安心してね」

ニコッと上辺だけの笑みを向ければ、京夜は忌々しげに舌打ちしながらご飯を掻き込んでいる。これは京夜が、自分が無理だと思ったり負けだと認めた時に悔しさからする行動。本当に変わってない。
少し……楽しい気持ちになったけど、掻き消すように息を吐いて席を立つ。母さんと父さんは「もう行くの?」と言っているけど、そろそろバスの時間だし行かなきゃいけない。

「うん、そろそろバスの時間だから。じゃあね」
「……ええ、気を付けるのよ」
「大丈夫だって、私だって家事くらい出来るから」
「変な男に着いていくなよ?」
「私を狙う男なんて居ないから安心して大丈夫!」

過保護な父さんと母さんは、これでもかってくらい心配してくる。まあ、父さんと母さんは嫌いって訳でも無いから、こういうの見て本当に嬉しくなる。
大丈夫大丈夫と、何度も繰り返し言えばやっと分かってくれた。

「ね、ねえお父さんお母さん……どういう事?お姉ちゃん今日は仕事無いはずだよね?何で、そんな……」

そう言葉を発したのは、私の妹で、私の中で信頼出来る数少ない家族である三条苺(いちご)。まあ、本当に極一部にしか今回この家出ていくことは伝えてないから当たり前か。
私は苺の方へと近付いて、ぽんと優しく頭を撫でる。苺は嬉しそうな顔をしながらも、何で?と質問は変わらない。

「私ね、今日でこの家出てくの」

苺の嬉しそうな顔も、京夜の憎たらしい顔も、奏夜の弱々しい顔も、他兄弟姉妹の普段通りの顔が、一気に凍り付いた瞬間だった。
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