桜の再会〜妖たちの宴〜
引き裂かれた夜

妖狐と護衛



「ひいいいいっっ!! お、お助け…!」


「黙れ」


暗く鬱蒼とした森の中で、白銀の刃が振り下ろされ、悲鳴が木霊した。


「………」


紫色の光をたたえた切れ長の瞳に、夜の闇を溶かし込んだかのようにつややかな腰までの黒髪(それすらも黒すぎて紫に見える)。


紺色の着流しをまとい、月光を背に刀を鞘に収める。

静謐(せいひつ)な表情と艶やかな立ち姿は、見た者が息を飲むほど美しく、飲み込まれてしまいそうな美丈夫だった。


美丈夫の足元には、先程まで男に命乞いしていた異形が転がっている。


異形ーーーーと呼ぶのがまさしく相応しいそれは、鬼と呼ばれる者だった。


血の抜けた青い体に、耳まで裂けた口からのぞく牙、ギョロリとした目。


血にまみれたそれを冷ややかに見つめてから、男は背後へと語りかけた。


「人間を襲った奴らはこれで最後だったか………桜紅(さく)」


男が言い終わるか終わらないかの内に、背後の闇の中から滲み出るように、1人の美女が姿を見せた。


肩までのふわりとした漆黒の髪、漆黒の瞳と、動きやすさを重視した闇色の服。


少女ーーーと呼ぶには少々大人びているようにも見えるがーーーは涼やかな目元に冷静な色をたたえ、鬼であったものを見下ろす。


「はい。残りは既に私が」


殺しました。という言葉を省略した少女ーー桜紅の返答に、美丈夫ーー李桜(りおう)は静かに目を閉じた。


「……そうか」


どこか安心したようなその声音に、桜紅はこころなしか悲しそうに目を細める。


だがそれも一瞬のこと。


桜紅は李桜に気付かれぬうちに、表情を元の無機質なものに戻し、地に片膝をついた。


「李桜様、そろそろ夜が明けます」


「ああ………帰るぞ」


李桜は踵を返すと、その秀麗な美貌を闇の中に潜ませ、姿を消した。


じわり、と溶けて地面の中に沈んでいく鬼の骸(むくろ)を確認し、桜紅は李桜の後を追うように、暗闇にとけ込んだ。








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妖怪、と呼ばれる存在がこの世に現れたのは、おそらく人間より後のことだろう。


何せ、人間の勝手な噂話や思い込みが、妖(あやかし)なるものを形作り、そして継承してきたのだから。


だがそれでも、妖が実在することを知る人間は少ない。

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