その羽根を僕にください
「じゃあ、まずは」

僕には見えない世界が20の目の前に広がっているみたいだ。
素早い動きで何かを追っている。

「あなたのお兄さんみたいな存在の…総一さんのそばに行ってあげて」

その瞬間、僕はそーちゃんの隣にいた。
20の姿はない。



いつの間にか時は流れていた。
真由ちゃんは高校の卒業式を終えて店に来ていた。
僕の卒業証書を持って、それを父さんに渡しに来たんだ。



「そー!」

後ろから父さんの声が聞こえる。
そーちゃんは振り返って父さんを見つめた。

「後で車で送ってあげて。
俺、今からスポンサーに挨拶に行かないといけないから」

父さんの後ろには真由ちゃん。

「はい」

そーちゃんは真由ちゃんを見て軽く会釈をする。
真由ちゃんも頭を下げる。

「お待たせ」

そーちゃんは仕事にいったん区切りをつけて真由ちゃんを送る。

「忙しいのに、すみません」

真由ちゃんが頭を下げると

「いいよ」

そーちゃんは優しい笑みを浮かべた。

…ああ、そっか。
本当に縁がある人ってこういう二人の事を言うんだろうね。
流れる空気感が違う。

2人は車に乗り、真由ちゃんの家へ向かう。

でも。
真由ちゃんは気分が悪そうに口を押えて意識を失った。
そーちゃんは何度も真由ちゃんに呼びかけるけれど、反応がない。
呼吸や脈を確認したそーちゃんが呟く。

「…妊娠しているのかな」

その呟きに僕は胸が痛くなる。
真由ちゃんの下腹部辺りには不思議な光がキラキラと反射している。

『うん、ごめん、そーちゃん』

隣で僕は謝る。

少しため息をついたそーちゃんはそのまま自分の家に向かい、真由ちゃんをベッドに寝かせると家から出掛けた。
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