ポプリ
 今、シオンの手を取ることは簡単だ。彼を受け入れれば喜んでくれるだろうし、両親も反対したりはしない、きっと。

 何より、シオンを悲しませることはない。

 それでも。

 花龍の好きは、父や母、麗龍に向けるものと同じような気がした。家族と同じように大切な存在。けれどもシオンとは同じではない気持ちだ。真剣に向き合ってくれたシオンには、やはり同じ気持ちを返さなくてはならない気がして。返すことが出来ない花龍は、求婚を断ることにした。

「……ごめんなさい」

 花龍は頭を下げた。

「どうしても、駄目か?」

「うん」

「家族のように想ってくれるだけでもいいって言っても?」

「うん……それじゃ、シオンに悪いと思う、から」

「……そっか。花龍は皇族じゃないもんな。気持ちが通じ合ってなきゃ、嫌だよな」

 シオンの言葉に顔を上げて、視線を合わせる。

 いつもは陽気な深海色の猫目が、なんの感情も読み取れない、無機質なものへと変化していた。それを見た花龍の心に、ずしりと重いものが積み重なった。

「分かった」

 シオンはそう言って花龍から目を逸らし、鞄を手にした。

「じゃあ、また二学期にな」

 明るい声で、手を振って去っていくシオン。

 でも、こちらに顔を向けることはなかった。


 どくどくと、重い音を立てて花龍の心臓が揺れる。




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