ポプリ
 夏休みが明けた、新学期。

 いつものように制服に袖を通し、いつものように学校までの道を歩く。

 そしていつものように昇降口に入ると、ちょうど靴箱の前で上履きに履き替えているシオンに逢った。幾人もの生徒たちが横を通り過ぎて行く中、無言で見つめ合う二人。



 顔を見ただけで胸が痛い。

 それでも一緒にいたい。だが一緒にいればきっと、この想いは捨てられない。

 それでは駄目だ。離れるべきだ。

 目を逸らして、足を動かして、背を向けて、立ち去らなければ。そうしなければ、いつまでも。



「……駄目だ」

 シオンは溜息を付きながら項垂れた。

 そして、顔を上げてもう一度花龍と視線を合わせ、笑みを浮かべた。

「おはよう。こっちは暑いな」

 いつもの屈託のない、太陽のような笑みではなかった。今にも泣きだしそうな顔をしていた。

 そんなシオンに、花龍も同じような笑みを向ける。

「……おはよう」

 そう言って、泣きながら、笑った。



 一緒にいるべきではない。

 そう、解っているのに。

 もう話さないとか、関わらないとか、そんなことは無理だ。……無理だった。



 二人は歩き出した。

 もう元には戻れないと思いながらも、大切過ぎるその場所を捨てることは出来なかった。それは、辛く、長い道のり。


 ぎこちない関係はしばらく続いたけれど、時間が経つにつれて少しずつ心を痛めなくなって、自然に笑えるようになって、それでも好きだという想いだけは胸の中に残したまま。

 高等部の入学式を迎える。










 シオンと花龍編、これにておしまいです。

 高等部での二人が新しい恋を始めるのか、それともそうでないのか、気になる続きは本編にて(笑)

 


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