雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
平野伊万里は今宮兄妹と出会った
 県立瑛美(えいび)高校に入学した初日、彼女は保健室で目を覚ました。

 ベッドに横になっている内に少し眠ってしまったらしい。ぼんやりとしていた意識が少しづつはっきりしてきて、ゆっくりと体を起こす。上履きを履いてシャッと白いカーテンを開けた。


「平野さん、気分はどう?」


 女性保健医に声を掛けられ、コクリと頷く。


「おうちの人に迎えに来てもらった方がいいんじゃない?」


 今度はふるふると首を横に振る。
 
 平野伊万里(ひらのいまり)は、対人関係に難ありな少女だった。今日の入学式でも講堂の雰囲気に呑まれ、途中で気分が悪くなった。人が大勢集まるところは苦手なのだ。出来る事なら過疎地の高校に行きたいと親に懇願したが、あえなく却下された。


「……帰ります。ありがとうございました」


 ほとんど聞こえないくらい小さな声だったので、保健医が「えっ?」と聞き返したが、伊万里は室内の一角に目を奪われていた。

 保健室の片隅に、教室にあるのと同じ机と椅子が一組。使い込まれたスクールバッグも無造作に置かれている。どうして? と、思ったその瞬間、保健室の扉がコンコン、とノックされた。
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