雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
 自宅での夕食時、千咲希は両親に話してみようと思った。四人掛けのダイニングテーブルに両親は並んで座り、千咲希は母親の正面というのが定位置だった。


「あのね」


 そう切り出すと、母親は「ん?」と千咲希の顔を見つめ、父親は箸を動かしたまま視線だけを向けた。


「たっくんに会ったよ、今日」


「たっくん?……たっくんって、もしかして八尾さんの?」


「そう」


「まぁ、懐かしい。どこで会ったの?」


 千咲希の母親は自宅で音楽教室をやっており、ある時期まで、幼い匡がピアノを習いに来ていたのだ。


「それがね、たっくんも同じ高校だったの。でも、ピアノはもうやってないって。今は目指せ甲子園! だよ?」


「へぇー。じゃあ、またこっちに戻って来たのかしらね? 懐かしいわ。たっくんも随分大きくなったんでしょうね」


「身長なんて、180くらいあるんじゃないかな? 昔は私より小さかったのに」


 すると、父親がフフッと笑みをこぼした。


「もう彼も高校生なんだから、そりゃあ背も伸びてるだろう。いつまでも千咲希の知ってるたっくんじゃあないんだぞ?」


 何気ない一言に、千咲希の胸がトクンと小さな音を立てた。
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