雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
 功から花火の誘いを受けた匡は、功が指定した待ち合わせ場所へとひとり向かっていた。花火なんて……と最初は断った匡だったが、功にどうしてもとしつこく誘われ、出掛ける事にした。のだが……。まるで民族大移動の様な人波に、やっぱり来るんじゃなかったと後悔していた。

 何気なく周りを見ると、浴衣を着た女の子達が、彼氏や友達と楽しそうに歩いている。背の高い匡は、少し離れた前方に見知った様な横顔を見つけてはっとした。

 いや、見間違いかもしれない。そんな疑念を持ちながら、もう一度目を凝らす。匡の目に映ったのは、紺色の浴衣を着て髪をアップにしている千咲希だった。その千咲希が微笑みかける先には、彼氏らしき姿がある。

 ――やっぱり男、いたんじゃねぇか。

 千咲希に彼氏がいるであろう事は想定内だったはずなのに、現実を目の当たりにして、匡の心は何故かざわついた。


『もう、俺に構うな』


『とにかく、もう話しかけるな』


 匡は千咲希に浴びせてしまった言葉を思い出し、まるで自己暗示をかける様に心で呟いた。

 ――別に、俺には関係ねぇ。
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