隣に住むのは『ピー…』な上司
近寄らないで
翌日は朝から雨降りでした。
梅雨が明けたばかりの空は、大気の状態も不安定だと天気予報士が言っていた。


「ピーチ、行ってくるね」


課長の小鳥に声をかけました。
ハンカチの中で丸くなっている小鳥は、声も出さずにじっとしている。

昨夜、寝る前にケースに入れていたハンカチのことを思い出し、カゴの中に移してみたけど正解でした。

ネットで調べてみたらインコは割とタオルとかが好きみたい。
無撚糸のタオルハンカチはピーチのお気に入りになったようです。


「ふふっ、可愛い」


やっぱり心が癒される。
課長がいない間、ピーチがいると思うだけでハッピーな気分になれる。


「課長が戻ったらお別れか」


出張はまだまだ初日。
それに小鳥は病気中だ。


「重くならないよう注意しないと」


気にしながらオフィスへ向かった。
販促課のホワイトボードには課長の出張先が書かれてある。


(今回は四国か)


この間は九州だった。
その前は確か近畿地方だったように思う。

販促課の課長になって何年か知らないけれど、課長は遠方にばかり行かされている。



「おはよう、アイ」


デスクに近づくと、真由香が顔を上げた。


「具合はもういいの?」


一瞬何のこと?と言いそうになりました。
昨日は課長の口車に乗せられて、仕事をズル休みしたんだったと思い出した。


「今日はもう平気。昨日は頭が痛くて大変だったけ……」


痛っ!
やっぱり舌を噛んでしまった。


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