君がうたう七つの子
掴もうとした。

けれど僕の手はわずかな冷気を感じただけで、空を切った。

彼女に触れることなく、届くことなく。

さっき彼女自身が消えると言って、ここにいるはずのない存在なのだと改めて認識したくせに、普通に彼女に触れられると、止められると思っていた自分に。

そしてその現実に、呆然とする。

僕が手を伸ばした時に微かに振り返ってそれを見た彼女は、今までで一番悲しみをにじませて顔を歪めて、それでもやっぱり泣かずに、走り去っていった。

僕はもう止めることなんてしなくて、出来なくて、動かない体に苛立ちながら、微かに、いや強く願いながら叫んだ。

「また明日!!」

いつもこういったら振り返って

『うん、また明日ね』

と言って嬉しそうに笑ってくれていた彼女は、足を止めることも、振り返る事も、ましてやまた明日と笑うことも無く、曲がり角へと姿をくらませた。

そこは幽霊らしく突然姿を消したりしないのなんて、相変わらず馬鹿みたいなことを考えながらも、僕はそこに立ちすくんでいた。

もしかしたら、彼女が戻ってくるかもしれないと、ずっとそこに居たけれどそんなことはなく、心配した両親が探しに来てもなお、僕はそこを動かなかった。

ただ彼女に触れられなかった手を強く握りしめて、彼女が消えていった方向をずっと見つめていた。
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